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コラム

 

お酒は、飲む瞬間の状態(温度、器、etc.)や保管(コンディショニング)、一緒に召し上がる食材のチョイス(マッチング)によって大きく変貌します。
個々のお酒について、ご希望の方にお教えすることも我々の最大のミッションのひとつ。
ご購入いただいたお酒をベストな状態で楽しんでいただくために役立つ知識、「これを知って飲むと一段とおいしい」お話を、短い文章にまとめてみました。

お酒に、料理に、人に、どれだけ寄り添えるか

2015年、店主を覚醒させる出会いがありました。
その鮨職人さんはカブに乗って突然、日本酒「酉与右衛門」を買いに来たのです。
初回は特に名乗ることもなく、ごく自然に。
次に来店された時にお鮨屋さんだということが分かり、シャリの話を聞き、あ!お燗酒が合いそうだなと、イメージだけでセレクトしたお酒を送り込んだら大惨敗!ぜんぜん合ってないじゃん!外したなあと、反省しきり。
よし、これはもう、バチバチに酒と料理を合わせて行こう。
覚悟を決めた私は、お鮨屋さんの端っこに座り、お通し・おつまみ・シャリそして、それに合わせるお酒…ひたすらメモを取りました。他のお客さんへは「この人酒屋なんで気にしないで」なんて言われながら。
お店が終わったら、職人さんへ提案会。
あ、これ合うね。これは外した。繰り返し、何回も何回も。
高い、有名関係なし。鮨を推す酒なのかそうでないのかだけのシンプルな世界で、思ったことをちゃんと言おうと、二人とも正直者になりました。
一緒に蔵元さんへ行ったことで、どういう方がどういう想いで酒を作っているのかというストーリーを背負い、共有できた事も大きかった。
そうしていく中で、気づけば私たちの関係は、売る・買うの関係でなく、お客様を絶対笑顔にして帰す為にいつでもベストを尽くすという、お互いへの尊敬と、信頼で結ばれた関係になりました。

どれだけ大変でも本当に美味しいものを出して、喜びと納得の中で食事をし、酒を飲んでもらうか。その最初の一歩を踏み出す勇気を身につけた時、自分が覚醒していく感覚を覚えました。
売って終わりじゃない。お酒に、料理に、人に、どれだけ寄り添えるかを大切にする想いは、今の私を支えてくれています。

これからも自分の原点を大切に、一酒屋として邁進していきます。

店主が店主になる前のこと。

坂戸屋店主が、いったいどんな酒屋なのか
それを語る上で欠かせないのが、取引先である蔵元さんや、料理人さんとの関係性。
今回はその中のいち蔵元さん、いち料理人さんを通しての、そんなお話を。

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店主が店主になる前のこと。
一番最初に美味しいお酒の目利きを教えてもらった蔵元さんがいます。
そのとある蔵元さんとの出会いは、2000年。

大手ビール会社を退職し家業を継ぐにあたり、私はもう一度お酒の勉強をしたいと思っていました。
母の従兄弟は川崎酒造のもと社長。跡継ぎがなく2年前に廃業していましたが、その社長に紹介されたのが、この蔵元さん。

初めて行った時のことは今でも覚えています。
まだ右も左も分からない私を、いきなり質問攻めにする蔵元。
会社辞めてやっていけるの?経営状態は?ビールの構成比は何%なの?…
2時間ほど話し込みましたが質問になかなか答えることができず、挙句に違う酒屋さんを紹介され、初回訪問時は恥ずかしながら、目に涙を溜めて帰りました。
しかし後で聞くと蔵元は、紹介先の酒屋さんに「こういう奴が行くから慰めてやってくれ」とフォローしてくれていたんだとか。
それでも私は、これだけ厳しいことを言ってくれるということは、それだけ目をかけてくれているという事だと。
有り難くも、申し訳なくもあり…もう一度本気で勉強し直さないともう次は会えない。そのきっかけをくれたのがこの蔵元でした。
懲りずに何度も通ううち、こんな課題を出されました。
「1年間月に一回、酒の会をやってみなよ。季節の食材と酒を合わせて、こんな楽しい世界観をみつけたよ!どう?!というペアリングの会。それができたら取引をしてあげる。」
やり切りました。1年間。そして分かった事…
料理というのは、季節ごとに素材が変わる。メニューが変わればお酒も変わる。冷やで出していたお酒の温度を変えたらもっと面白い。頭では分かったつもりだったことが、だんだんと腑に落ちる感覚。料理があって、酒があるのだ。人と食べ物の間を取り持つのが酒なんだということ。
私の原点ができ、またそれをやり切ったことにより、信頼関係の作り方をも教えてもらった気がします。
今でも会うと熱く酒を語り合い、もうかれこれ23年のお付き合い。
感謝しかありません。

蔵元にひたすら育ててもらったからこそ、私は料理人さんと酒を語る時にはそのお店の出汁を持ってきてもらい、正直な話をします。23年前とリンクする今。
食文化の一部として、酒を扱う私がいます。

お酒の今昔物語

日本で酒造りが始まったのは、稲作が伝来した弥生時代。
口噛み酒として神様にお供えしたのが始まりと言われています。
口噛み酒とは、米などの穀物を口に入れて噛んだものを容器に移し溜めたものを放置して作るお酒のこと。
古来日本では、酒作りは神に仕える巫女の仕事とされていました。
海外のワインとは違い、主食を原料に作るものだから原価が高く、室町時代までは貴族だけが飲める特別な飲み物だった純米酒。
江戸時代になってやっと、庶民にも浸透していきます。
戦前までは日中に汗をかく仕事が多く、肉体労働のあとに疲れを癒す甘いお酒が多く求められましたが、戦後の高度経済成長期からは、淡麗辛口がいいお酒。地酒ブームの到来となってきます。
純米酒をお燗にして飲むという、本来の日本の文化にも変化が訪れます。

今のお酒の幅広さ、神様はどう見ておられますのやら。

日本酒の温度

人の味覚の「甘味」や「旨味」は40〜50度の温度帯で一番感じられると言われています。
冷たいままだと閉じていた味の花が、ふわーっと開くのです。

それを知ってか知らずか、古来日本の貴族たちは、純米酒を熱燗で飲んでいたとか。

そもそも、人体は冷たいアルコールを分解できない仕組みになっています。
冷酒の場合、体内で人肌にあたたまってから一気に胃腸がアルコールを吸収してしまい、酔い潰れる原因に。
お燗の場合は飲んですぐ分解が始まるので…体に優しく、だらだらゆるゆる。いつまでも。
そこにあたたかいお料理があれば、最高です。
本来の日本の貴族飲み。お試しあれ。

爽・穏・濃・熟

日本酒は、大きく4つのカテゴリーに分けられると考えます。


 新酒。爽快な味わい。冷やで。

 食事のじゃまにならない、火入れされた食中酒。冷〜温燗。

 生原酒・熟成。冷やから熱燗まで自由自在。

 火入れされた、円熟の味わい。熱燗向き。冷やでも。

どのお酒にもベストな飲み方ー温度、食事とのマッチング、熟成度、etc.ーがあります。
ひとつひとつのお酒に込められた作り手の想いを余すところなく楽しんで頂くことが、わたしたちの願いです。

試飲サービス、量り売り

坂戸屋の「計り売り」。

店頭での試飲サービスと量り売りは、日本酒の場合、非常に珍しいのではないでしょうか?
当店へお越しになるお客様のうち、およそ10人中7人は、日本酒を探しに来られる方です。

わたしたちの役割は、的確なアドバイスを添えてお客様とお酒の橋渡しをすることです。 
まず、お好みや合わせる料理などのご要望をヒアリング。
それを踏まえて、ご希望の方に、厳選したお酒の試飲をご提供しています。 また、
グラム単位での日本酒の測り売りも可。
お好みと出逢う喜びを気軽にお楽しみください。

レストラン、料理屋でのお料理とのペアリングについて

ご来店のお客様に「どんな料理に合わせるのか」をお伺いすることがあります。

例えば「牡蠣と合わせる」なら、「生ガキなら、穏やかなタイプのお酒、加熱して召し上がるなら、芳醇な骨太タイプのお酒」といったことを申しあげ、お好みとご予算に合わせた銘柄をいくつかご提示します。

東京近辺の和食店・フレンチ・スペイン・バル等に日本酒やワインを納品しています。 お酒の役割、そしてわたしたちの役割は、食事をされるお客様に、圧倒的な感動体験を提供することです。
完璧なペアリングは、料理を支えて押し上げます。 洋食店に日本酒、和食店にワインなど、攻めの提案をすることも。ミシュラン店を含め、多くの料理のプロより厚い信頼をいただいております。

>レストラン・料理屋ページ

酒トレ

お酒にまつわる学びは無限です。

コンディション、ペアリング、風味の解析、作り手のメッセージ、風土や歴史、etc.

お酒を扱う仕事のプロであるための日々の真剣な研鑽から、初心者を交えたワークショップのスタイルまで、とても有意義な酒トレを展開しています。

[酒トレ参加者の声]

 

<30代女性(お酒に弱いが、お酒好き)>

坂戸屋さんHPのテキストを担当したことがきっかけで、武笠さんの日本酒に対する熱い思いに触れ、酒トレを受けてみたいと思いました。

酒トレ内容:
「爽」「穏」「濃」「熟」4つのカテゴリーの日本酒の特徴や飲み方を教えてもらいながら、始めは冷やで、次はお燗でお酒を味わうというもの。

感想:
とにかく楽しく、美味しかったです!
個人的には、大矢孝酒造株式会社さんの「残草蓬莱」のフルーティな爽やかさに感動しました。

同席した日本酒が大好きな夫も、武笠店主の説明に聞き入り「自分の知らない、おいしいお酒がまだまだあるなあ。坂戸屋さん、うちの近くにもあったらいいのに」とブツブツ。
そして、びっくりしたのが冷やとお燗で飲むのお酒の印象の違い! 特に衝撃を受けたのは、長珍酒造株式会社さんの「阿波山田65」。温度でここまで豹変するんですね。まるで違うお酒を飲んでいるかのよう。 お燗の方法を丁寧に教えていただいたので、初めての私でも美味しい温度のお燗が出来ました。「燗」という飲み方を知ったことで、お酒の世界がグッと広がった気がします。武笠さんが本当に日本酒を愛していらっしゃるんだなというのが言葉や表情の端端から感じられ、その武笠さんと一緒にお酒を楽しむことで、より一層お酒の魅力を感じる事が出来ました。
今回はオンライン受講でしたが、楽しすぎて、次は対面で酒トレしたい!という夢もできました。武笠さん、ありがとうございました!

[酒トレ参加者の声]

 

<50代男性(ふだんは洋酒メイン、日本酒に興味津々)>

酒トレ内容:
坂戸野ウエブショップで購入可能な「スタディセット」をいただきながらの酒トレ。「残草蓬莱」「喜久醉」「長珍」「丹沢山」の4本。

感想:
普段まったく気づかないような、それぞれのお酒の繊細な違いを、驚くほどはっきりと感じることが出来ました。それぞれのお酒が本当においしく、愛おしく感じられ、いきなり一番好きなお酒は日本酒になりました。

これまでに、お酒の温度や一緒に口にする食べものに無頓着だったせいで、お酒を楽しむチャンスをたくさん無駄にしてきたかもしれません。

これからは、ひとつひとつのお酒のことを知り、ひと口も無駄にしないように丁寧に味わっていこうと思っています。

店主の晩酌

店主自宅での夕食は、酒トレ(自主トレ)の場でもあります。 

「今日は鶏のトマト煮込み。セレクトをよろしく」

のような妻からの連絡に、真剣勝負が始まります。
知れば知るほどに、底無しに深まっていくお酒の世界。
ゴールの見えない探究には、家族の協力が必須です。
あまり詳しくは公開しませんが(笑)、テッパンの組み合わせはたとえば「しゃぶしゃぶ」と「王祿」(島根県)。参考にしていただければ。

フレーバーによるペアリング

語るべきことは無限にありますが、たとえば「柚子の乗ったおひたしに、柑橘系フレーバーが感じられるお酒」といった、同じ要素を持つものどうしのペアリングなど、わかりやすい手法もあります。

やっぱり、器は大切です。
王道の焼きものの酒器はもちろんおすすめですが、たとえば .. 坂戸屋の酒トレでは、ワイングラスで日本酒をいただきます。

お猪口でいただくときの感覚が「味が塊で入ってくる」だとすれば、ワイングラスでいただくとき、お酒の持つ風味、香り、舌触りといったポテンシャルが最大限に引き出され、ひとつひとつの要素が広がって入ってくるような感覚があります。そのお酒が「何者か」がより分かりやすくなるのです。
ただし、熱燗、温燗は平盃で。あたたかさ、滋味深さを損なわない、丁寧な飲みかたです。

米農家

田植え、草取り、収穫などのどこかで、米農家の作業を手伝いに行きます。
蔵元が同行し、丸一日の作業です。今年2020年はコロナ禍のため断念せざるを得ませんでしたが、とても貴重なお話をうかがえる場でもあり、ほぼ毎年のミッションとなっています。

2018年10月には、福岡県糸島の農家古川伊津雄さんが作る、無農薬栽培山田錦の収穫を手伝いに。 福岡県久留米の旭菊酒造「大地」という純米酒の原料米です。
2019年6月には、島根県出雲市の旭日酒造が醸す「十旭日(じゅうじあさひ)」の原料米の一種を生産する農家の田植えに伺いました(麦わら帽が店主です)。

これは、奥出雲の奥の奥の山間部にある、たたら製鉄場所の跡地であり、農機具を入れることが出来ないため、段々畑の上で苗を育て、下の田んぼに植え替えて稲を育てるという行程を手作業で行うという、衝撃すら覚える作業をしています。
当然、お酒は極々少量の生産量になりますが、そこに立ち合い、農家、蔵元、お酒のすべてと真摯に向き合えることをうれしくおもいます。

ワイナリー

山梨県北杜市明野に、グレイスワイン三澤ワイナリーがあります。 グレイスワインの三澤彩奈さんは、もっとも信頼する醸造家のひとりであり、毎年お伺いします。

三澤彩奈さんの取材記事 https://oggi.jp/192460グレイスワイン三澤ワイナリーのワインを含め、坂戸屋の日本ワイン、クラフトビールは、100%問屋を通さない直接取引です。

>ワイナリーページ

熟成酒の魅力

日本酒は「生き物」です。

10年、20年と長期間熟成することにより、造り手も驚くような香り・味わいの変化を遂げることも。
拘りは、-5℃下での徹底管理。
低温でゆっくり熟成させる事により不要な変色を防ぎ、できるだけ爽やかな味わいを。 例えるならハチミツのような密度とフレーバーを目指します。

江戸時代の文献「訓蒙要言故事」の一説には 「新酒は頭ばかり酔う 熟成酒はからだ全体が潤うように気持ちよく酔う」との記述が。
古来より愛され、そしてまだまだ可能性を秘めた熟成酒。 これからも突き詰めていきます。

シンプルということ

日本酒の設計図は千差万別。
それゆえ、単体で飲んで分かりやすく「おいしい」冷酒から、あたためて頂くシンプルな味わいのお酒まで、いま世の中には本当にたくさんの日本酒があります。
どちらの良さもありますが、伝統的な日本酒の設計図はいたってシンプル。
それをもとに、いかに綺麗に丁寧に作るかに拘ります。
そうしてできたシンプルなお酒はシンプルな食材とガッチリ合っていく。
その懐の深さは、例えば多国籍の料理をも受け入れてしまうほど。 大切に守られてきたこの味わい。 あなたに知ってほしいのです。

ノンアルコールの可能性

居酒屋さんに行って、少し心が痛いことがあります。
それは、ノンアルコール飲料の種類ってお酒に比べて少ないよね、ということ。

烏龍茶・コーラ・オレンジジュース etc…
お酒が飲めたら楽しいけれど、飲めない事情だってある。 飲む人と飲まない人。
両者間にできる壁、無くせたらいいのにな。 そんな思いから店主はコソコソと、ノンアルコール飲料と料理のペアリング研究を始めました。
日本茶・中国茶・紅茶・フレーバーティー、各15種類。
そのままで、又はそれぞれをブレンドしたり ブレンドの為の天然素材を 探したり…。 これがけっこう難しく奥深いのだけれど。
目指すのは、料理を中心に据えたノンアルの新境地。
表に出せるようになったら飲んでほしい方の笑顔を思い浮かべながら…

コンディショニング

わたしたちが絶対に手を抜くことの出来ないミッションのひとつは「コンディショニング」です。

お酒、とくに醸造酒のクオリティは、温度、光、振動など、輸送時と保管時におけるさまざまな条件によって失われ得る、とても繊細なものです。
蔵元やワイナリー、お得意さんとの会話でも、かならず熱を帯びて登場する「コンディショニング」。
ともすれば見えない部分でもある、「本当のおいしさ」を守り抜くプロフェッショナルの仕事です。

おいしさのキーワード

2020年は世界規模で価値観が大きく変わった年でした。
わたしたちから見ると「家飲み」の復権という大きな出来事だったのかもしれません。

いつもソトで飲んでいた人が、おいしいお酒を家庭で楽しむ(みんなで飲んだら楽しかったよ)。あたりまえだと思っていた幸せに、立ち止まって気づける幸せもある。
おいしいお酒を買って帰ったお父さんの復権でもあり、同じ予算でいつもより良いお酒を楽しめるチャンスなのかも。

.. と思えば逆もまた然り。お酒を買いにいらしたお客様との会話でも「(外食でしか味わえない)焼き鳥と生ビール飲みたいよねー」のような。
やっぱり飲食業は大事なんだと。
どちらの楽しみ方も知り抜いたうえで、幸せのキーワードになるお酒を提供していきたいと再確認。