
コラム「店主が店主になる前のこと。」公開しました。2日間の滞在で取材・執筆してくれたライターによるコラムです。
店主が店主になる前のこと。
それを語る上で欠かせないのが、取引先である蔵元さんや、料理人さんとの関係性。
今回はその中のいち蔵元さん、いち料理人さんを通しての、そんなお話を。
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店主が店主になる前のこと。
一番最初に美味しいお酒の目利きを教えてもらった蔵元さんがいます。
そのとある蔵元さんとの出会いは、2000年。
大手ビール会社を退職し家業を継ぐにあたり、私はもう一度お酒の勉強をしたいと思っていました。
母の従兄弟は川崎酒造のもと社長。跡継ぎがなく2年前に廃業していましたが、その社長に紹介されたのが、この蔵元さん。
初めて行った時のことは今でも覚えています。
まだ右も左も分からない私を、いきなり質問攻めにする蔵元。
会社辞めてやっていけるの?経営状態は?ビールの構成比は何%なの?…
2時間ほど話し込みましたが質問になかなか答えることができず、挙句に違う酒屋さんを紹介され、初回訪問時は恥ずかしながら、目に涙を溜めて帰りました。
しかし後で聞くと蔵元は、紹介先の酒屋さんに「こういう奴が行くから慰めてやってくれ」とフォローしてくれていたんだとか。
それでも私は、これだけ厳しいことを言ってくれるということは、それだけ目をかけてくれているという事だと。
有り難くも、申し訳なくもあり…もう一度本気で勉強し直さないともう次は会えない。そのきっかけをくれたのがこの蔵元でした。
懲りずに何度も通ううち、こんな課題を出されました。
「1年間月に一回、酒の会をやってみなよ。季節の食材と酒を合わせて、こんな楽しい世界観をみつけたよ!どう?!というペアリングの会。それができたら取引をしてあげる。」
やり切りました。1年間。そして分かった事…
料理というのは、季節ごとに素材が変わる。メニューが変わればお酒も変わる。冷やで出していたお酒の温度を変えたらもっと面白い。頭では分かったつもりだったことが、だんだんと腑に落ちる感覚。料理があって、酒があるのだ。人と食べ物の間を取り持つのが酒なんだということ。
私の原点ができ、またそれをやり切ったことにより、信頼関係の作り方をも教えてもらった気がします。
今でも会うと熱く酒を語り合い、もうかれこれ23年のお付き合い。
感謝しかありません。
蔵元にひたすら育ててもらったからこそ、私は料理人さんと酒を語る時にはそのお店の出汁を持ってきてもらい、正直な話をします。23年前とリンクする今。
食文化の一部として、酒を扱う私がいます。